特別編

『障害年金と地方の見えにくい壁 ~「胆道閉鎖症・肝移植」家族の声から考える現実と制度の課題~ここが肝心!🙋』

みなさん、こんにちは。

徳島障害年金サポートセンターで障害年金サポーターをしている楠 昇です。


「自らが病気で障害年金を受けた社労士が、同じ苦しみを抱える方と共に闘う」——その思いを胸に、障害年金専門社労士として、またNPO法人の代表として活動を続けています。

あらためて、みなさん、こんにちは。

徳島障害年金サポートセンターの楠 昇です。



前回は、『「障害年金の “よくある誤解と正しい知識”」~ここが肝心!🙋』について、お伝えしました。



今回は、『障害年金と地方の見えにくい壁 ~「胆道閉鎖症・肝移植」家族の声から考える現実と制度の課題~ここが肝心!🙋』。

「単なる制度問題」を超えた「生活崩壊のリアル」「地域格差の理不尽」を、現場から率直に訴えさせていただきます。

1.幼児から続く闘病と“門前払い”の現実

徳島に、胆道閉鎖症と闘いながら母親の献身で命をつないできた一人の若者がいます(以下Aさん、仮名)。



Aさんは母子家庭で育ち、幼くして父親を亡くしました。

生まれてからこれまで、片道30キロも離れた大学病院へ救急搬送されることは数知れず。

医師からは、「いずれは母親から肝臓移植が必要」と宣告されていました。



本来であれば学業や療養を優先すべき立場でした。

が、経済的な事情から、高校を卒業した後は母親を支えるため必死に働き続けました。

頻繁な救急搬送のため正規雇用は難しく、非正規雇用を転々としながら、倒れるぎりぎりまで働き続けてきたのです。



そんなAさんは昨年末、病状の悪化により母親から肝臓移植を受けました。

にもかかわらず——経済的にも家庭的にも追い詰められている状況で申請した障害年金は、「不支給」。



これまで当事務所ではひとつも不支給ケースを出したことがありませんでした。

Aさんの件は、私たちにとっても初めての“黒星”。

まさに、壁の前で立ち尽くすような感覚でした。

2.移植後も続く地獄と、切り捨てられた現実

Aさんは移植前、吐血で救急搬送。

手術は昨年末に県外の国立大学病院で行われました。

が、その後も月1回は手術を受けた病院へ通院中です。



ここで重要なのが、肝臓移植後は「免疫抑制療法」が不可欠であり、これは単なる薬の服用にとどまらず、日常生活に大きな負担と制約をもたらします。



免疫抑制薬は一生服用し続けなければならず、服薬管理を怠ると新しい肝臓に拒絶反応が起き、命の危険も伴います。

さらに、免疫を抑制するため、通常ならかからない細菌・ウイルスへの感染症リスクがきわめて高まります。

このため、こまめな手洗い・うがい・マスク着用、食事や生活での細かな衛生管理、外出や人混みに対する慎重な配慮が必要となり、ごく普通の社会生活や就労、学校生活の再開は非常に高いハードルとなります。



免疫抑制療法による厳格な制限が日常生活に重くのしかかり、さらに地元病院に救急搬送され10日以上入院することがすでに3回。

この8月末現在も、Aさんは長期入院中でした。(退院されたのかどうかは不明)。



それでも「検査数値が基準を下回らない」という形式的な理由で、障害年金は不支給。

これは一体、誰のための制度なのでしょうか?



主治医からも「免疫抑制下での日常制限は極めて厳しく、今後も予断を許さない」と医学的意見をいただいています。

にもかかわらず現場の声も生活の苦闘も無視され、紙切れの数値一つで切り捨てられてしまう。
これが今の障害年金制度の“現実”です。

「肝臓の認定基準」から

a.肝臓移植にかかる取り扱い

肝臓移植を受けたものに係る障害認定に当たっては、術後の症状、治療経過、検査成績及び予後等を十分に考慮して、総合的に認定することとされています。

障害年金を支給されている者が肝臓移植を受けた場合は、臓器が生着し、安定的に機能するまでの間を考慮して、術後1年間は従前の等級とされます。

3.意見陳述の権利と地方における経済的課題

審査請求や再審査請求では、「意見陳述」という重要な手続きが認められています。

これは、書面のみでは十分に伝わりにくい日常生活上の困難や頻回の入退院状況などを、申請者や代理人が直接説明できる貴重な機会です。



しかし地方では、意見陳述等に出席するための交通費等が高額となり、特に徳島から香川県高松市や東京都への移動費・日当等は大きな負担となっています。

例)当事務所のおける徳島~高松市の場合(交通費1万円+日帰りの日当5万円:税込み)



Aさん親子の場合も医療費・生活費の負担が重なり、結果として制度上認められる権利の行使が困難となりました。

現在、形式的には保障されている手続きであっても、実質的に活用できない状況が一部に残っています。

4.地域格差の現状について

障害年金は「全国一律に公平な制度」であることが建前ですが、実際は都道府県ごとに不支給率に大きな差が生じています。

都市部と比べて地方ほど認定が厳しく、無料相談や支援団体の体制にも格差がみられるのが実情です。

このような状況は、公平性・透明性の観点からも課題と考えられます。

5.2025年以降の認定手続き等の動向

近年は、年金加入記録のわずかな不備や書類不備で申請が却下・返戻となる事例が増加しつつあります。

“数値”や“書面”の形式要件が重視される傾向が強まる一方で、申請者の実態や生活背景に即した柔軟な運用が充分とは言い難い状況です。

6.現場の課題意識と今後への提案

現場では、不支給決定によって大きな落胆や社会的不安に直面するご家族の姿が見られます。

経済的・地理的な要因で障害年金申請や不服申立てのハードルが著しく高いこと、そして救済手続の格差が温存されていることは今後も検証と改善が求められる分野です。

7.提言

意見陳述や不服申立て手続のオンライン化・交通費等の実費支援、地域間格差の検証と情報公開、認定体制の点検、個別の生活実態や医学的意見を一層重視した総合評価――


これらは現時点で国・厚労省による正式な制度改革事項として決まっているものではありませんが、日弁連や学識経験者団体など専門家・関係団体によって繰り返し提案・要望されてきた重要な論点です。

2025年の制度改革議論においても、「生活実態等を把握した上での認定」や「透明性の向上」などを検討課題・附帯決議に位置づけるに留まり、こうした具体的措置の導入については今後の検討課題とされています。

8.おわりに 

障害年金制度が本来の社会的支え合いの理念を発揮できるよう、今後も現場からの実態把握・発信、制度の公正な運用に向けた提言を行ってまいります。

最後になりますが、

私は、県庁時代の障害福祉業務や親として障害児団体に関わった経験を活かし、

「障害や難病を抱えていても社会で再び活躍できる」

その可能性を自分自身の生き様でお伝えしていきたいと考えています。



たとえ病気や障害で多くを失っても、人は再び立ち上がれます。

何もしなければ失敗もありませんが、成功も絶対にあり得ません。



私の経験が、悩みながらも挑戦し続けるみなさんの一歩につながれば幸いです。

以上、『障害年金と地方の見えにくい壁 ~「胆道閉鎖症・肝移植」家族の声から考える現実と制度の課題~ここが肝心!🙋』について、お話ししました。🙇

それではみなさま、来週また月曜日にお会いしましょう。🙋



これからも私も頑張り続けますので、みなさんもどうか一緒に、一歩ずつ頑張っていきましょう。

『「経済的・地理的な壁に泣き寝入り」しない社会へ』
~地方ほど交通費・実費も重く、心理的障壁も高い~
2025年9月15日